ヒナタイノコヅチ(日向猪子槌)は、ヒユ科イノコヅチ属の多年草です。中国、日本に分布します。日本では北海道の一部、本州、四国、九州に分布します。
「猪子槌」の名は、茎の節の膨らんだところが「猪の膝頭」に似ているという事なのですが、現代人にとって猪自体を詳しく観察した事は無いのではと思うと、理解しにくい名前かもしれません。別名の、フシダカ(節高)やコマノヒザ(駒の膝)も同じ所に着目した名前です。土突きの道具である胴突の一種、蛸胴突が語源ではないかとの説もあります。中国名は、和牛膝(hé niú xī)。 ヒユ科(Amaranthaceae Juss. (1789))は、世界に約70属800種程(APG分類体系では約163属1,800種)があり、日本には5属程があります。イノコヅチ属(Achyranthes L. (1753))は熱帯から温帯に約8種が分布します。 日当たりの良い荒れ地や山地に自生します。根は深くにはびこり、除草の抜き取りはやっかいです。草丈は50~100cm。茎は四稜形(四角形)で、紅紫色。分枝部の節が膨らみます。葉は、対生します。楕円形で鋭頭、毛があり、長さ5~12cm。葉はよじれる場合があります。 花期は、8月から9月。葉腋から穂状花序を出します。花軸に対して横向きに花を咲かせます。小花は緑色で径約6mm。花被片は先端が尖り5個。雄しべ5個、膜状の仮雄しべがあります。雌しべ1個。花後は花軸に沿って下向きになります。花被片の外側には2本の小苞があります。小苞の腋に半透明の膜状の付属体があり、イノコヅチ(猪子槌)1)の約半分である長さ0.3~0.5mm。 果実は、胞果2)です。花被片に包まれ、長さ約5mm、幅約2mm。小苞が棘状になり衣服にとりついて拡散されます。種子は1果実に1種子。仮種皮に包まれ、長楕円形で長さ約3mm、幅約1.5mm。残存花柱があります。染色体数は、2n=7x=42。 環境省自然環境局生物多様性センター「自然環境保全基礎調査」によると、静岡県の「ひっつき虫」は次の割合になっています(1996年)。コセンダングサ43%、ヒナタイノコズチ21%、オオオナモミ11%、その他25%。コセンダングサ(小栴檀草)には思い知らされているので納得ですが、ヒナタイノコズチが、これほどまでに多いとは知りませんでした。分布域は今まで知られていたよりも北進しているようです。 やっかいな「ひっつき虫」ですが、逆手にとって子供は遊びに使います。漢方薬としても利用されます。乾燥根を生薬ゴシツ(牛膝)と言い、利尿、通経、強壮薬の「牛膝散」「牛車腎気丸」などの処方に配合されます。中国産は懷牛膝(huái niú xī)。そのような活躍をされると、迷惑な害草だから無くなった方が良いという理屈は通りにくくなります。どんな人間も動物も草も、存在する事に意義があります。土中の細菌が無ければ植物は生きられませんし、植物がなければ動物は生きられません。一見不必要と思われたものの多くは、実は大切な働きをしているという場合が多いという事です。害草等も、心理学で言う「昇華」の如く、役立つ方向に変えられる事例は多いのだと思います。 脚注: 1)イノコヅチ(猪子槌)Achyranthes bidentata Blume var. japonica Miq. 2)胞果(utricule):閉果 (indehiscent fruit)の一つで、成熟しても裂開しない果実。複数の心皮からなり、1種子を含む。 Japanese common name : Hinata-inokoduti ヒナタイノコヅチ(日向猪子槌) 別名:フシダカ(節高)/コマノヒザ(駒の膝) 表記間違:イノコズチ ヒユ科イノコヅチ属 学名:Achyranthes bidentata Blume var. fauriei (H.Lév. et Vaniot) synonym : Achyranthes bidentata Blume var. tomentosa (Honda) Hara 花期:8月~9月 多年草 草丈:50~100cm 花径:3~4mm 【学名解説】 Achyanthes : achyron(籾殻)+anthos(花)/イノコヅチ属 bidentata : bidentatus(二歯の) var. : varietas(変種) Blume : Carl Ludwig von Blume(1828~1851) fauriei : Urbain Jean Faurie (1847-1915)の H.Lév. : Augustin Abel Hector Léveille (1863-1918) et : et alii(及び・命名者が2名の時など・&(and)に同じ) Vaniot : Eugène Vaniot (1845-1913) --- tomentosa : tomentosus(密に細綿毛のある) Honda : 本田正次 Masaji Honda (1897-1984) Hara : 原 松次 Hara Matuji (1917-1995) --- イノコヅチ(猪子槌)/別名:ヒカゲイノコヅチ(日陰猪子槌) japonica : 日本の[japonicus(男性形)/japonica(女性形)/japonicum(中性形)] Miq. : Friedrich Anton Wilhelm Miquel (1811-1871) 撮影地:静岡県静岡市 安倍川/河口から0.5km 左岸河川敷 2005.09.14 - 09.23 賤機山(Shizuhata-yama) 2007.11.17 [Location : Shizuoka City, Shizuoka Prefecture JAPAN] 24 September 2005, 17 January 2015, 14 November 2017, 20 November 2017 Last modified: 06 September 2023
by pianix
| 2005-09-24 00:00
| ひっつき虫
|
Comments(4)
|
by pianix カテゴリ
タグ
白色系(136)
紫色系(80) 黄色系(75) 赤色系(67) キク科(64) チョウ目(鱗翅目)(50) シソ科(33) マメ科(23) バラ科(22) 赤い実(22) カメムシ目(半翅目)(18) 緑色系(16) 茶色系(14) アオイ科(14) ナス科(13) タテハチョウ科(13) ユリ科(11) ヒガンバナ科(11) ヒルガオ科(11) 多色系(10) 記事ランキング
Introduction
「草花と自然Blog」へお越し下さってありがとうございます。このブログは2005年8月1日に開始しました。
自然体験活動指導者 《静岡県》 森林環境教育指導者 環境学習指導員 ◆専門的なことをなるべく排除して、さらに必要な知識を得るための基礎となる内容を心がけています。少しでも生物についての興味を持って頂けたら幸いです。 ◆私の趣味は、アマチュア無線・競歩等です。興味のあるものは、天文学・理論物理学等です。残念ながら花には深い思い入れがありません。名前を覚えるのが苦手なので、せめて目にした野草の名前の幾つかを覚えようと観察を始めました。もっとも、聖書に書かれている「野の花がどのように育つのか、注意して見なさい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる。」(マタイ 6:28-30抜粋・新共同訳)に触発されたのが根底にあります。 【見にくい場合】スマホでレイアウトが乱れて見にくい場合は、ご利用のブラウザアプリでPC版に切り替えて下さい。PC版で最適化しています。 【検索する】和名はカタカナ表記です。漢字やひらがなで検索しないほうが良好な結果が得られます。 【写真を拡大する】写真をクリックすると拡大されます。その写真をクリックすると元に戻ります。ブラウザの設定によっては動作しません。 【コメントする】記事タイトルをクリックすると「コメントする」ボタンが最下部に現れます。パスワードは削除する時に必要なものです。投稿者のあなたが決めて下さい。 【トラックバックする】[停止中]承認制としさせて頂いていますので、確認後に有効にさせていただきます。問い合わせの必要はありません。 【間違いの指摘】コメント欄の「非公開コメント」にチェックを入れて書き込んで頂ければありがたいです。 【注意】民間療法、生薬などは、使い方を誤ると重大な結果を招きます。知識無く利用する事は危険です。専門家の指導無しに利用する事は避けてください。 ・このブログに掲載されている写真・画像・イラスト・文章を無断で使用することを禁じます。 ・写真にリンクを貼ることは固くお断りします。 ・当Blogを利用することで生じる損害その他一切の不利益について、作者は責任を負いません。 ・種子等の配布、及び栽培方法、生育地の詳細、民間薬としての使い方等を問い合せされてもお応えできません。 静岡県の推計人口 (2024年 2月 1日現在) 総数3,544,597人 (前月比 -3,553人) 世帯数1,515,983世帯 (前月比 -292世帯) 静岡市の人口・世帯数 (2024年 1月末日現在) 合計677,147人 (前年同月比 -5,763人) 男:329,734人 女:347,413人 世帯数324,434戸 (前年同月比 +1.576戸) 最新のコメント
以前の記事
2023年 11月
2023年 06月 2022年 12月 2022年 08月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 05月 2020年 07月 2020年 04月 2020年 01月 more...
ブログジャンル
|
ファン申請 |
||