ヒガンバナ(彼岸花)は、ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草です。日本と中国に分布します。日本では全国に分布し、中国から稲作と共に移入された史前帰化植物(在来種)と考えられています。名の由来は、秋の彼岸頃に開花する事から。別名のマンジュシャゲ(曼珠沙華)は古い呼び名で、古代インド梵語(サンスクリット語)manjusaka(マンジュシャケ)の音写です。如意花と訳し天界の花とされます。多数の別名があります。中国名は、石蒜(Shí suàn)。
ヒガンバナ科(Amaryllidaceae Jaume Saint-Hilaire (1805)) は、世界の熱帯から温帯にかけて約59属860種が分布します。クロンキスト体系ではユリ科(Liliaceae Juss. (1789))に分類され、世界の熱帯と温帯に約280属4000種が分布します。ヒガンバナ属(Lycoris Herbert (1821))は東南アジアに3属1)約30種が分布します。 鱗茎及び全草共に有毒です。毒成分は、リコリン (lycorine, C16H17NO4)、ガランタミン(galantamine, C17H21NO3)です。誤食した場合、睡眠作用、痙攣、吐き気、下痢の症状が現れます。半数致死量(LD50)は、10,700mg/Kg(マウス)。重篤な中毒はまれとされています。飢餓の時に、水にさらして毒抜きをして食べた救荒作物としても知られています。 民間療法で外用生薬・石蒜(せきさん)として肩こり、浮腫、乳腺炎の治療に用いられる場合があります。ヒガンバナアルカロイド(Amaryllidaceae alkaloids)は、鎮痛、抗ウイルス、抗マラリア、抗腫瘍、中枢神経作用などの薬理作用が報告されています。ガランタミンはアルツハイマー病治療薬として用いられますが、現在は合成精製されたものを使用します。※危険なので素人は用いないようにする。 田の畦道、土手、墓地等、人の生活圏内に自生します。広卵形で大きさ2~6cmの鱗茎があり、栄養繁殖(鱗茎の分球により増殖)します。埋没しても上方の地表下に移動する性質があります。鱗茎に含有するリコリンはアルカロイド系成長阻害物質でもあり、季節変動があるアレロパシー作用によって周囲の植物発生を制御します。花後の10月に葉を出します。葉は線形で長さ30~50cm、幅4~8mm。中央に薄緑色の筋が入ります。 花期は9月。鱗茎から花茎を30~50cmに立ち上げ、茎先に1つの包をつけます。包から5~8個程の花を輪生状に横向きに出し、散形花序を形成します。花被は倒披針で6枚あり赤色、長さ約4cm、幅5~6mm。縮れていて外側に反り返ります。雄しべ6本、雌しべ1本で、花冠より突出します。子房下位。 年間の生活形態は次の通りです。9月に花が咲き、10月に葉を出す。4月に葉が枯れ8月に至る。つまり、他の草木が生い茂る季節は葉を落とし、競合する相手が少ない冬に葉を伸ばし鱗茎に栄養を蓄えます。 染色体数は、2n=3x=33(=33A)。3倍体の不稔性(sterility)であるため結実しません。中国産シナヒガンバナ(支那彼岸花)Lycoris radiata (L'Hér.) Herb. var. pumila Grey の染色体数は2n=22。稔性があり結実し、ヒガンバナの原種と言われています。日本産より早咲きですが、小ぶりなため、コヒガンバナ(小彼岸花)の別名があります。シロバナマンジュシャゲ(白花曼珠沙華)=シロバナヒガンバナ(白花彼岸花)Lycoris x albiflora Koidz.の染色体数は2n=3x=17(=5M+1T+11A)で、ヒガンバナ同様に結実しません。シナヒガンバナ(支那彼岸花)とショウキズイセン(鍾馗水仙)Lycoris traubii W.Hayw. の自然交配種と考えられています。 脚注: 1) ヒガンバナ属(Lycoris Herbert (1821))、ハマオモト属(Crinum L. (1753))、ハエマンサス属(Haemanthus L. (1753)) 参考文献: ヒガンバナ科植物含有Lycorine型アルカロイドに関する化学的研究(Toriizuka, 2009) ヒガンバナ自生地における雑草発生制御の実態(Takahashi, Ueki, 1982) ヒガンバナの他感作用と作用物質リコリン・クリニンの同定(Fujii, Iqbal, Nakajima,1999) Japanese common name : higan-bana ヒガンバナ(彼岸花) 別名:マンジュシャゲ(曼珠沙華) ヒガンバナ科ヒガンバナ属 学名:Lycoris radiata (L'Hér.) Herb. 花期:9月 多年草 草丈:30~50cm 花径:6~12cm 【学名解説】 Lycoris : ギリシャ神話の海の女神Lycorisに因む/ヒガンバナ属 radiata : radiatus(放射状の) L'Hér. : Luis Hernández Sandoval (1958- ) Herb. : William Herbert (1778-1847) --- x : 二種間交配種 albiflora : albiflorus(白花の) Koidz. : 小泉源一 Genichi Koidzumi (1883-1953) --- pumila : pumilus(低い) 撮影地:静岡県静岡市 安倍川/河口から12.75km 左岸河川敷 2005.09.30 *4 安倍川/河口から8.5km 左岸河川敷 2006.09.22 *3 安倍川/河口から5.75km 右岸河川敷 2007.09.27 *2 藁科川(安倍川水系)/河口から1.5km 左岸河川敷 2007.09.28 *5 内牧川(安倍川水系)/上流 2006.09.25 *6 賤機山 2010.11.08 [Location : Shizuoka City, Shizuoka Prefecture] 8 November 2010, 12 November 2010 Last modified: 6 June 2014 Scientific name confirmed: 9 September 2015
by pianix
| 2010-11-08 00:00
| 花
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Comments(4)
こんにちは。初めてお邪魔します。
ネットでいろいろ調べ物をしていたら、偶然こちらのブログを発見しました。素晴らしいブログですね。とても参考になることが多く書かれていて、素人植物記を書く身にとっては頼もしいブログです。 これからも時々お邪魔させていただきます。 どうぞ宜しくお願い致します。
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pianix at 2010-11-11 21:53
多摩NTの住人さん、こんにちは。
「多摩ニュータウン植物記」を拝見しました。 大変参考になります。 ウオーキングをされているのですね。八王子は数回行ったことがあります。 こちらこそ、よろしくお願いいたします。
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michiyaxkomaba
at 2015-09-08 12:11
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リコリンの薬理作用を調べていてお邪魔しました。最近リコリンのお世話になったものですから。説明が分かりやすくてよかったです。写真もきれいです。
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pianix at 2015-09-09 15:47
michiyaxkomaba 樹医SATO様、コメントを頂きありがとうございます。
今日は台風18号が通過したので野外活動ができませんでした。私の所は幸いにも被害がありませんでしたが、近くを流れる安倍川の水量が上がっています。すでにすっかり晴れ上がっていますので、河川敷へ出向いて観察がてら気分発散をしてきます。 というのも、慣れない会計処理をしたので頭がくらくらしているからです。自分の小遣いさえ計算した事がないのに、町内会計を任されてしまってもう3年、地獄です(笑)。 lycorineとかcholineとか考えると、もう駄目。こりん星で遊んできます(?)。
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「草花と自然Blog」へお越し下さってありがとうございます。このブログは2005年8月1日に開始しました。
自然体験活動指導者 《静岡県》 森林環境教育指導者 環境学習指導員 ◆専門的なことをなるべく排除して、さらに必要な知識を得るための基礎となる内容を心がけています。少しでも生物についての興味を持って頂けたら幸いです。 ◆私の趣味は、アマチュア無線・競歩等です。興味のあるものは、天文学・理論物理学等です。残念ながら花には深い思い入れがありません。名前を覚えるのが苦手なので、せめて目にした野草の名前の幾つかを覚えようと観察を始めました。もっとも、聖書に書かれている「野の花がどのように育つのか、注意して見なさい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる。」(マタイ 6:28-30抜粋・新共同訳)に触発されたのが根底にあります。 【見にくい場合】スマホでレイアウトが乱れて見にくい場合は、ご利用のブラウザアプリでPC版に切り替えて下さい。PC版で最適化しています。 【検索する】和名はカタカナ表記です。漢字やひらがなで検索しないほうが良好な結果が得られます。 【写真を拡大する】写真をクリックすると拡大されます。その写真をクリックすると元に戻ります。ブラウザの設定によっては動作しません。 【コメントする】記事タイトルをクリックすると「コメントする」ボタンが最下部に現れます。パスワードは削除する時に必要なものです。投稿者のあなたが決めて下さい。 【トラックバックする】[停止中]承認制としさせて頂いていますので、確認後に有効にさせていただきます。問い合わせの必要はありません。 【間違いの指摘】コメント欄の「非公開コメント」にチェックを入れて書き込んで頂ければありがたいです。 【注意】民間療法、生薬などは、使い方を誤ると重大な結果を招きます。知識無く利用する事は危険です。専門家の指導無しに利用する事は避けてください。 ・このブログに掲載されている写真・画像・イラスト・文章を無断で使用することを禁じます。 ・写真にリンクを貼ることは固くお断りします。 ・当Blogを利用することで生じる損害その他一切の不利益について、作者は責任を負いません。 ・種子等の配布、及び栽培方法、生育地の詳細、民間薬としての使い方等を問い合せされてもお応えできません。 静岡県の推計人口 (2024年 2月 1日現在) 総数3,544,597人 (前月比 -3,553人) 世帯数1,515,983世帯 (前月比 -292世帯) 静岡市の人口・世帯数 (2024年 1月末日現在) 合計677,147人 (前年同月比 -5,763人) 男:329,734人 女:347,413人 世帯数324,434戸 (前年同月比 +1.576戸) 最新のコメント
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