エビネ(海老根)は、ラン科エビネ属の多年草です。日本、朝鮮、中国に分布し、日本では北海道から沖縄にかけて分布する在来種です。環境省レッドブックで準絶滅危惧(NT)。名の由来は、地下茎の形状を海老に見立てたもの。園芸愛好家の間ではジエビネ(地海老根)の名前が使われています。中国名は、虾脊兰/蝦脊蘭(xiā jǐ lán)。
ラン科(Orchidaceae Juss. (1789))は、熱帯から亜寒帯に約700属、15000種以上、日本には約73属約220種が分布します。エビネ属(Calanthe R.Brown ex Ker-Gawler, 1821)は、東南アジア、東アフリカ、オーストラリア、南米などに変種を含んで約210種が分布し、日本には21種が自生します。 山野の林内に自生します。球状で2cm程の偽鱗茎1)を地表浅く横に伸します。偽鱗茎からは径2~3mmの不定根を出し多数の根毛をつけます。葉は根生します。基部は花茎を抱き、披針状長楕円形で幅3~6cm、長さ15~30cmの薄い葉を2~3枚出します。縦に5本の葉脈があり縮れます。前年度の古い葉は地表に倒れ菌の栄養となります。茎の太さは3~5mm程で2~3個の小さな苞がつき、直立して高さ30~40cm。 花期は4月から6月頃。総状花序を出し、径2~3cmの花を8~15個、下垂させます。花柄は長さ約16mm。花は左右相称のラン形花冠で、幅約20~33mm。萼片(外花被片)3個と花弁(内花被片)がそれぞれ3個あり、萼片3個と花弁の2個(側花弁)は暗褐色で先が尖ります。花弁中央は唇弁で、白色や薄紫紅色、長さ約6.5mmで深く3裂し、さらに中央の中裂片は浅く2裂、3本の隆起線があります。基部が袋状の距となり長さ5~10mm、入口部に雄しべと雌しべが合着した蕊柱(ずいちゅう)があります。 両性花。花粉は黄色で花粉塊となります。子房下位。果実は蒴果2)です。長さ3cm位の楕円形で6稜があり、熟すと稜の中央から縦に6個の裂目ができて種子を飛ばします。種子は菌根菌(木材腐朽菌)に依存する微小な線状の埃種子で多数あり、風によって散布されます。染色体数は、2n=40。 品種(forma=f.)に、アカエビネ(赤海老根)Calanthe f. rosea (Hatus.) Honda[萼片と側花弁が紫褐色で唇弁が淡紅色]、ダイダイエビネ(橙海老根)Calanthe f. rufoaurantiaca (Iwata) Honda[萼片と側花弁が黄褐色で唇弁が白色]、があります。 変種(varietas=ver.)に、カツウダケエビネ(嘉津宇岳海老根)Calanthe var. kanashiroi Fuk.[沖縄県に分布]、ハノジエビネ(八の字海老根)Calanthe var. divaricatipetala Ida[徳之島に分布]、があります。変種とされていた絶滅危惧IAのアマミエビネ(奄美海老根)Calanthe var. amamiana(Fuk.)Masam.[奄美大島および徳之島に分布]はsynonym(異名)とされ、Calanthe amamiana Fukuy.に変更3)されました。 ※乱獲によって自生種は激減しました。種子から花をつけるまでは5年を要すると推測されています。絶滅を防ぐために盗掘はやめましょう。また園芸用途では無菌培養による増殖が確立されていて、乱獲の減少につなげる努力もされています。(環境省RDB図鑑一覧による) 脚注: 1)偽鱗茎(ぎりんけい):蘭の複数の茎の節間にできる栄養貯蔵組織。 2)蒴果(さくか):裂開果の一つで、熟すと果皮が割れて種子を出す果実。 3)米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList) ※以下の写真は、アカエビネ(赤海老根)Calanthe discolor Lindl. f. rosea (Hatus.) Honda です。 Japanese common name : Ebi-ne エビネ(海老根) 別名:ジエビネ(地海老根) ラン科エビネ属 学名:Calanthe discolor Lindl. 花期:4月~6月 多年草 草丈:30~40cm 花径:2~3cm 【学名解説】 Calanthe : calos(美)+anthos(花)/エビネ属 discolor : dis(分離)+color(色)[異なる部分が二色の] Lindl.: John Lindley(1799-1865) --- f. : forma(品種) rosea : roseus(バラ色の・淡紅色の) Hatus. : 初島住彦 Sumihiko Hatusima (1906-2008) Honda : 本田正次 Masaji Honda (1897-1984) 撮影地:静岡県静岡市 安倍城跡(Alt. 435m) 2013.04.21 - 06.04(果実) - 09.06(裂開後果実) 2014.03.31(新芽) [Location : Shizuoka City, Shizuoka Prefecture JAPAN] 6 September 2013, 6 April 2014, 6 October 2017 Last modified: 3 May2021
by pianix
| 2013-09-06 00:00
| 花
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by pianix カテゴリ
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Introduction
「草花と自然Blog」へお越し下さってありがとうございます。このブログは2005年8月1日に開始しました。
自然体験活動指導者 《静岡県》 森林環境教育指導者 環境学習指導員 ◆専門的なことをなるべく排除して、さらに必要な知識を得るための基礎となる内容を心がけています。少しでも生物についての興味を持って頂けたら幸いです。 ◆私の趣味は、アマチュア無線・競歩等です。興味のあるものは、天文学・理論物理学等です。残念ながら花には深い思い入れがありません。名前を覚えるのが苦手なので、せめて目にした野草の名前の幾つかを覚えようと観察を始めました。もっとも、聖書に書かれている「野の花がどのように育つのか、注意して見なさい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる。」(マタイ 6:28-30抜粋・新共同訳)に触発されたのが根底にあります。 【見にくい場合】スマホでレイアウトが乱れて見にくい場合は、ご利用のブラウザアプリでPC版に切り替えて下さい。PC版で最適化しています。 【検索する】和名はカタカナ表記です。漢字やひらがなで検索しないほうが良好な結果が得られます。 【写真を拡大する】写真をクリックすると拡大されます。その写真をクリックすると元に戻ります。ブラウザの設定によっては動作しません。 【コメントする】記事タイトルをクリックすると「コメントする」ボタンが最下部に現れます。パスワードは削除する時に必要なものです。投稿者のあなたが決めて下さい。 【トラックバックする】[停止中]承認制としさせて頂いていますので、確認後に有効にさせていただきます。問い合わせの必要はありません。 【間違いの指摘】コメント欄の「非公開コメント」にチェックを入れて書き込んで頂ければありがたいです。 【注意】民間療法、生薬などは、使い方を誤ると重大な結果を招きます。知識無く利用する事は危険です。専門家の指導無しに利用する事は避けてください。 ・このブログに掲載されている写真・画像・イラスト・文章を無断で使用することを禁じます。 ・写真にリンクを貼ることは固くお断りします。 ・当Blogを利用することで生じる損害その他一切の不利益について、作者は責任を負いません。 ・種子等の配布、及び栽培方法、生育地の詳細、民間薬としての使い方等を問い合せされてもお応えできません。 静岡県の推計人口 (2024年 2月 1日現在) 総数3,544,597人 (前月比 -3,553人) 世帯数1,515,983世帯 (前月比 -292世帯) 静岡市の人口・世帯数 (2024年 2月末日現在) 合計676,607人 (前年同月比 -5,483人) 男:329,454人 女:347,153人 世帯数324,388戸 (前年同月比 +1.770戸) 最新のコメント
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