ヤマトリカブト(山鳥兜)
 ヤマトリカブト(山鳥兜)は、キンポウゲ科トリカブト属の疑似1年草1)です。日本が原産で、本州の関東地方西部と中部地方東部の限られた地域に分布する日本固有種です。トリカブトの名の由来は、花の形状が舞楽の被り物である鳥兜に似ている事から。古来の烏帽子(えぼし)や鶏の鶏冠によるとも言われています。トリカブトの英名は、aconite monkshood(修道士の頭巾)。中国名は鳥頭(乌头、wū tóu)、附子(fùzǐ)。ヤマトリカブトは、中国産生薬の鳥頭に対する日本産のトリカブトの意味。山に生えるトリカブトとの説もあります。

 キンポウゲ科(Ranunculaceae Juss. (1789))は、北半球の温帯を中心に58属約2500種が分布します。トリカブト属(Aconitum L. (1753))は、北半球の寒帯から温帯に亜種を含めて約300種類が分布します。日本にはトリカブト属30種、変種22種の52種があると言われています。分類が難しい種の一つです。

 山地の林下や林縁に生えます。塊根2)(かいこん)は表皮が茶色でニンジンに似た紡錘形です。前年の根に新しい根が出て古い根は枯れます。この母根を漢方ではウズ(鳥頭)と言い、子根をブシ(附子)と言います。母根が1年で枯れるので、疑似1年草と分類されます。林縁では斜上し、明るいところでは直立し、高さ60~200cmになります。葉は互生します。長さ幅とも6~20cmの掌状で、3~5中裂します。葉の裂片は、披針形から卵状披針形となり,欠刻状鋸歯があります。

 花期は、8月から10月頃。茎頂の葉腋から散房花序を出します。花は、青紫色や薄紫色で長さ3~4.5cm。花序に多数を付け、上から順に咲かせます。花弁に見えるのは萼片で、上に付く鳥の頭に似た僧帽形の頂萼片1個、側面にある側萼片は倒卵形で2個、下側にある下萼片は楕円形で2個の計5個から構成されています。花弁は頂萼片内に2個あり、イの字形の筒状で、後部に巻いた距を持ち蜜を出します。花弁から長く伸びた基部に雄しべの集団が付きます。両生花で、雄しべは多数あり、雌しべは3個。花柄に微細な屈毛(曲がった毛)が密生します。果実は袋果です。細長い筒状で先端に角状突起があり、長さ約2.5cm。種子は長さ約3.5mmで、多数入っています。

 全草が有毒ですが、塊根は特に猛毒です。成分はアルカロイド毒の、aconitine(アコニチン), mesaconitine(メサコニチン), aconine, hypaconitine, jesaconitine, lipoaconitine, lipomesaconitine, benzoylaconine, higenamine, coryneine等。トリカブトはよく知られていて、知っていて食べる人はいませんが、ニリンソウ(二輪草)と間違えた誤食死亡事例があります。ヒトの致死量は3~5mgと言われています。舌の痺れ・流唾・嘔吐、酩酊状態、不整脈・昏睡、心停止の経過をたどります。根を致死量まで生食するとなると親指程の大きさとなり、苦味が強い事もあって食べるのは困難です。解毒剤はありません。フグ(河豚)毒に次いで強い毒と言われています。漢方で用いられるものは、毒性の低い種類からさらに減毒して作った、生薬のエンブシ(塩附子)、ホウブシ(炮附子)、ソウウズ(草鳥頭)で、鎮痛・強心・興奮・利尿に処方されます。

 トリカブト属には本種の他、近畿地方の日本海側山地に分布し葉が5裂するイブキトリカブト(伊吹鳥兜)、西日本に分布し葉が3全裂するタンナトリカブト(丹那鳥兜)、東北地方から中部地方に分布し花柄に屈毛があるツクバトリカブト(筑波鳥兜)、北日本に分布し葉が5~7裂して世界で2番目に強毒であるオクトリカブト(奥鳥兜)、北海道に分布する世界で最も強毒のエゾトリカブト(蝦夷鳥兜)があります。また、鳥兜の別名であるブシ(附子)の名が付く種類の、サンヨウブシ(山陽附子)、カワチブシ(河内附子)、カラフトブシ(樺太附子)があります。日本には1種だけ蔓性の、ハナカズラ(花鬘)があります。園芸店で販売されている物は、中国産のハナトリカブト(花鳥兜)や、ヨーロッパ産のヨウシュトリカブト(洋種鳥兜)=アコニット(aconite)です。

1)1年草は、種子から発芽し年内に枯れて世代を終える植物の事。多年草は、地下部と地上部、又は地下部が多年に渡って生きる植物。疑似1年草は、母根が1年で枯れ、新しい地下茎を作る植物。
2)塊根(塊状根|tuberous root):根が塊状に肥大したもの。貯蔵根(strage root)の一つで、主根や胚軸が肥大した多肉根(succulent root)と、不定根が不定型に肥大した塊状根(tuberous root)がある。

Japanese common name : Yama-torikabuto
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Aconitum japonicum Thunb. subsp. japonicum

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左:僧帽形の頂萼片に距の影が見える。 右:開花前

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花冠。長さは、3~4.5cm。花柄に微細な屈毛。

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左:雄しべ集団 右:萼が取れた状態/雌しべ3個

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左:葉表。 右:葉裏。

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果実は袋果で、種子は多数。

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萼片の一部を切り取り内部の花を露出。左:側面、右:正面。2007.11.08
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明るい場所では立ち上がって花を付ける事が多い。


ヤマトリカブト(山鳥兜)
キンポウゲ科トリカブト属
学名:Aconitum japonicum Thunb. subsp. japonicum
synonym : Aconitum japonicum Thunb. var. montanum Nakai
花期:8月~10月 疑似1年草 草丈:60~200cm 花冠長:3~4.5cm

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【学名解説】
Aconitum : akoniton(投矢)/トリカブト属
japonicum : 日本の[japonicus(男性形)/japonica(女性形)/japonicum(中性形)]
Thunb. : Carl Peter Thunberg (1743-1828)
subsp. : subspecies(亜種)
---
var. : varietas(変種)
montanum : montanus(山の・山地生の)
Nakai : 中井猛之進 Takenoshin Nakai (1882-1952)

撮影地:静岡県静岡市
位置情報非公開 2006.11.28, 2007.11.08, 2008.09.25
[Location : Shizuoka City, Shizuoka Prefecture JAPAN]

05 December 2006, 09 October 2010
Last modified: 09 October 2016
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by pianix | 2006-12-05 00:00 | | Trackback | Comments(2)
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Commented by namiheiii at 2006-12-06 15:50
面白い形の花ですね。一度だけ山道で見たことがあります。
aconitineはナトリウムチャンネルに結合してチャンネルを開放するのだそうですね。丁度フグ毒のテトロドトキシンの逆ですね。毒を持って毒を制する。tetrodotoxinは解毒剤にならないかな?
Commented by pianix at 2006-12-07 13:41
namiheiiiさん、コメントありがとうございます。

植物毒に詳しいようですね。しかも、解毒剤を考えているのは正しい方向だと思います。

このトリカブト、標本や植物園で確認をしたものですが、情報が錯乱しています。私には、葉の形状からして「ツクバトリカブト」に見えてしょうがないのです。書いたものがこんな事を言っては、どうしようもありませんね。
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