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ハマオモト(浜万年青)
 ハマオモト(浜万年青)は、ヒガンバナ科ハマオモト属の多年草です。アジアに分布し、日本では千葉県以西の海に面した地域に分布する在来種です。名の由来は、葉がオモト(万年青)に似て海岸近くに咲く事によります。オモトの語源は不明です。豊前の御許山からとか、オオモト(大本)やアオモト(青本)からの転訛と言われています。万年青は、葉がいつも青々としている事から。ハマユウ(浜木綿)は、白布(ゆう)のような花色で海岸近くに咲く事から。一般には、この別名で親しまれています。中国名は、文殊兰(wén shū lán)。

 ヒガンバナ科(Amaryllidaceae J.St.-Hil. (1805)) は、世界の熱帯から温帯にかけて約59属860種が分布します。クロンキスト体系ではユリ科(Liliaceae Juss. (1789))に分類され、世界の熱帯と温帯に約280属4000種が分布します。ハマオモト属(Crinum L. (1753))は、約180種が分布します。

 海岸付近に自生します。植栽されている場合もあります。円柱形で白色の鱗茎があり、長さ30~50cm。茎は太く、草丈は50~80cm。葉は束生します。線状披針形で全縁、肉質で葉表に光沢があり、長さ30~70cm、幅4~10cm。内側にやや巻きます。

 花期は7月から9月。葉腋から花茎を伸ばします。花序基部の総苞片から散形花序を出し、白色の花をつけます。花冠基部は筒状で6深裂します。裂片は広線形で、外側に反り返り、長さ7~9cm。雄しべは6本で花冠から長く突き出します。紫色を帯びた線形の花糸先端に葯をT字状につけます。芳香があります。

 果実は蒴果です。球形で径3~4㎝、灰白色。種子は海綿質の種皮に包まれ、白色の球形で径2~3cm。根はリコリン (lycorine)を含み有毒です。染色体数は、2n=22。

 ハマオモトの日本分布として、年最低気温の平均-3.5℃の等温線によるハマオモト線(Crinum Line)1)が提唱されています。ハマオモトヨトウ(浜万年青夜盗)幼虫の食害を受ける事があります。

◎  ◎  ◎

 7月30日、無線機店へアマチュア無線のQSLカードを発送するために出かけました。せっかく海の近くまで来たのだからと海岸へ足を運びました。日が落ちてきた頃、ハマオモトが涼しそうに咲いているのを見つけました。

 この帰り道は渋滞続きでした。静岡市で毎年行われる「安倍川花火大会」の日だったからです。戦時下、空襲で焼き出された方々の慰霊のために始まった花火大会です。多くの人たちが安倍川河川敷で荼毘(だび)に付されました。現在はその意味合いも薄れてしまったようですが、多くの人たちが見物に出かけてきます。車の規制が至るところで行われます。私は花火の音だけを聴きました。

 当時も咲いていたであろうハマオモトと、家も人も焼き尽くした焼夷弾。なんとも不釣り合いな光景が脳裏にありました。

脚注:
1)Takuji KOSHIMIZU 1953. Crinum in Japan and the mechanism of its distribution. Rep. Kihara Inst. Biol. Res. (Seiken Zihô)No. 6: 1-4.

Japanese common name : Hama-omoto
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Crinum asiaticum L. var. japonicum Baker

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左:花冠基部は筒状で6深裂する。 右:果実は蒴果。

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ハマオモトヨトウ(浜万年青夜盗)
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Brithys crini crini (Fabricius, 1775)
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ナガバハマオモト(長葉浜万年青)
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Crinum longifolium Thunb.


ハマオモト(浜万年青)
別名:ハマユウ(浜木綿)
ヒガンバナ科ハマオモト属
学名:Crinum asiaticum L. var. japonicum Baker
花期:7月~9月 多年草 草丈:50~80cm 花径:5~10cm

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【学名解説】
Crinum : crinon(百合)/ヒガンバナ科
asiaticum : asiaticus(アジアの)
L. : Carl von Linne (1707-1778)
var. : varietas(変種)
japonicum : 日本の[japonicus(男性形)/japonica(女性形)/japonicum(中性形)]
Baker : John Gilbert Baker (1834-1920)
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longifolium : longus(長い)+folium(葉)
Thunb. : Carl Peter Thunberg (1743-1828)

撮影地:静岡県静岡市
安倍川/河口から0.25km 左岸土手 2005.07.30
静岡県立大学薬草園 2007.08.09
葵区南沼上 2018.07.27 
賤機山(Shizuhata-yama) 2021.10.29
[Location : Shizuoka City, Shizuoka Prefecture JAPAN]

18 August 2005, 1 June 2019
Last modified: 4 November 4
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by pianix | 2005-08-18 00:00 | 海辺の植物 | Comments(0)
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