笑顔
e0038990_12591770.jpg 季節はずれの夏日となった日、私は少し離れた安倍川支流の土手へ草花の観察に出かけました。河川敷の、ほんの少しの水溜りで、小学生二人が遊んでいました。彼らは水溜りに閉じ込められた小魚を両手ですくい上げて歓声を上げていました。小魚の中の少し大きめの魚を懸命に追っています。私も一緒になって、どこにいるかを教え始めてしまいました。立ち去ろうとした時、「ナマズだ!」と大きな声を上げたので、再度見に行きました。両手の中に確かにナマズがいました。「髭もあるぞ」と喜んでいるので写真に撮らせてもらいました。するともう一人の子も、「僕のも撮って」と言い始めました。撮り終わると「おじさん、ありがとう」と元気な声で言いました。実は、私は何故ありがとうと言われたのか即座に理解できませんでした。彼らの手の中にあるナマズを撮っただけで、お礼を言うのは私のほうだったからです。彼らの住所を聞いていれば現像した写真を送ることもできたかもしれませんが、それはしていません。
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マナマズ(真鯰) Silurus asotus Linnaeus, 1758


e0038990_1311623.jpg 少し土手を進むと、幼稚園児ほどの可愛らしい二人の女の子がいました。彼女たちは急いで土手を降りようとしています。そこで私を見つけて言いました。実にあどけない言い方で、「おじさん、チョウチョとった」。「おお、凄いね」と私が言うと、「アゲハなの、見て」と言って、彼女たちは土手の上に戻りました。そこには2本の採取網が投げ出されていました。その中に蝶がいました。見るとアゲハではなく、ヒメアカタテハでした。女の子は「アゲハじゃなくてもいいの」と言いました。蝶が採取できただけで十分なのでしょう。そして私が思うに、ナミアゲハよりヒメアカタテハのほうが彼女たちに合っているかもしれません。翅裏に綺麗な模様があり、ナミアゲハより子供が好きそうな色彩をしています。「おじさん、これを虫かごに入れて」と言われて、何故呼び止められたのか理解できました。彼女たちは採取したのは良いが、どうやって虫かごに蝶を移すのかが分からなかったようです。網から蝶を出すと逃げられてしまうかもしれないと考え、親を呼びに行こうとしていたのです。私が虫かごの上に網を覆いかぶせ、蝶を虫かごの入り口に追いやるのを、彼女たちは真剣に見ていました。移し終えると、「おじさん、ありがとう」と言って、家へ戻っていきました。あたりには、ナミアゲハやキアゲハが飛んでいました。
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キアゲハ(黄揚羽) Papilio machaon hippocrates (C & R Felder, 1864)


e0038990_1523425.jpg 土手斜面は除草作業が終わり観察すべきものはありません。しかしヒガンバナ(彼岸花)が背丈を伸ばして群落を作っていました。少し年配の女性が一眼レフカメラでヒガンバナを撮影しています。ヒガンバナを綺麗に写したことが無い私は、逆光で撮影している様子に感心して声を掛けてみました。彼女は写真教室へ通っていて、提出する写真を撮っているとの事でした。デジタル一眼レフではなく、銀塩のカメラでした。しばらく私は蝶を追っていました。一段落ついたところで、ヒガンバナが咲く土手斜面に彼女と腰を下ろして話を始めました。カメラの話から始まり、自然の素晴らしさについてを語り合い、人生についての話題にまで広がっていきました。土手の上を少年達の自転車が通り抜けました。「さっきのおじさんだ、ありがとー」。
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土手斜面の彼岸花。上部左に河川中州にある「木枯しの森」が見える。

 通常、観察と称する散歩に出掛けると、200前後の枚数を撮影するのですが、この日は人との出会いで、わずか48枚にとどまりました。しかし、得たものは大変大きく、また楽しい一日となりました。私は思います。幼少時に自然と触れ合って育つことの大切さを。その時、子供達は満面の笑みを浮かべているのです。植物観察ではなくて人間観察のような日でしたが、このような日があっても良いなと感じられる一日でした。

撮影地:静岡県静岡市
藁科川(安倍川水系)/河口から2.0km 左岸 2007.09.28
[Location : Shizuoka City, Shizuoka Prefecture JAPAN]

9 October 2007
Last modified: June 12, 2008
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by pianix | 2007-10-09 00:00 | 雑記 | Trackback | Comments(8)
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Commented by ダッファー at 2007-11-21 22:16 x
こんばんは。
写真と文章、ともに心温まります。
遠景と近景がまた素晴らしい。
Commented by pianix at 2007-11-26 17:28
ダッファーさん、こんばんは。
現在、ブログ更新が滞っています。雑用に追われて時間がないためです。
「素晴らしい」とお褒めの言葉を感謝します。ここに掲載している写真は検証用?の類なので、写真を撮られている方にとってはつまらないと思います。ご勘弁を。
Commented by ダッファー at 2007-11-26 21:32 x
ヒガンバナ(彼岸花)はまた別名シビトバナ(死人花)とも言われますね。あの鮮やかなもしくは毒々しい赤色が忽然と現れるのに、どきりとした思い出があります。まだ子どものころ、姉が「あかい花なら曼珠沙華、オランダ屋敷に雨が降る・・・」と歌っていたのを思い出します。そのときは曼珠沙華がどんな花か知りませんでしたが、歌詞だけが紅いイメージと雨と異国情緒を残していました。
実態を知ったのは青春期、言葉とそれが指すモノが時間差で定着したものの一つです。
Commented by くろ at 2008-04-30 11:16 x
写真の撮り方や、写真の配置、文章が私と違って美しいです。見習わなくちゃ。

お子さんに気軽に話しかけられる風貌らしいですね。きっと優しさがにじみ出ているのでしょう。
GWは、暑くなりそうです。
Commented by pianix at 2008-05-26 21:20
くろさん、こんにちは。
くろさんのブログでお世話になっています。
自分では優しい人間だと思っているのですが、
鏡で見る私は近寄りがたい風貌なのです。ちょっと怖い……。
今は山の植物を観察しています。
Commented by なか at 2008-06-11 04:10 x
ブロッグの更新に期待しています。
Commented by pianix at 2008-06-19 12:05
なかさん、こんにちは。
更新が滞ってすみません。
近々、ゆっくりと再開しようと思っています。
……思っているだけだったり。
時間さえあれば山に登って観察をしています。

カメラ故障しています。4回目の修理に出しました。
新しいのを買えと家族に言われていますが、踏ん切りがつきません。

今年いっぱいは、環境についての講習に出席します。
ですから、ゆっくりとしか更新できないと思います。
Commented by なか at 2008-07-05 09:54 x
元気に活躍されている様子に安心しました。
長期療養中か何か身体的なことで更新できないのではと心配していました。
私もできばえはグレードの高いものに負けますがコンパクトデジカメに固執しています。
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