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ハコネウツギ(箱根空木)
 ハコネウツギ(箱根空木)は、スイカズラ科タニウツギ属の落葉低木です。日本原産の在来種で、北海道南部から九州にかけての沿岸部に分布が見られます。その内で特に静岡県に多いとされています。本来の自生分布地の特定は困難のようです。名の由来は、産地と思われていた箱根を冠するウツギ(空木)から。実際には箱根の地名は誤認命名によるものです。ウツギの名は、茎が中空である事から。ちなみに、ウツギはユキノシタ科で、本種はスイカズラ科です。

 スイカズラ科(Caprifoliaceae Juss. (1789))は、北半球の温帯を主に約17属500種が分布します。タニウツギ属(Weigela Thunberg, 1780)は、北アメリカ・中国・朝鮮半島・日本に12種が分布し、日本には10種が自生します。

 樹高は、2~4mになります。枝の樹皮は灰黒色。葉は対生します。単鋸歯がある楕円形あるいは倒卵形で先端は尖鋭形、長さ5~15cm、幅3~6cmです。長さ8~15mmの葉柄があり、基部は広いくさび形。葉表は深緑色で、葉裏は青味を帯び、ほぼ無毛ですが脈には毛があります。

 花期は5月から6月頃。枝先や葉腋に集散花序を出し、2~8輪の花をつけます。鐘形漏斗状の花冠で、先端が5裂した合弁花です。長さ25~42mm、幅は23~33mm。初めは白色ですが淡紅から紅紫色に変化します。萼片は5個あり、長さ8~20mm、幅0.8~2.2mmの線状。長さ7~13mmの雄しべが5本、長さ23~30mmの雌しべ1本があります。果実は長さ2~3cmの朔果で、1.5mm程の種子は卵形で狭い翼があります。

 タニウツギ属植物の花弁にはアントシアニン(anthocyanin)と、フラボノイド(flavonoid)が含まれます(Chang, 1997)。ハコネウツギにおいては、アントシアニン量が開花後の花弁で経時的に著しく増加して花色の変化をおこします。送粉昆虫1)は赤花よりも白花を選択的に訪花します2)。つまり、受粉が済んだ確率が高い赤花よりも、受粉前の白花に昆虫を誘導する花色の変化は、昆虫にとっては能率的であり、花数が多いハコネウツギにも無駄が無い生存上の戦略であると言えます。

 品種(forma)として、白花で花色が変化しないシロバナハコネウツギ(白花箱根空木)Weigela coraeensis Thunb. f. alba (Voss) Rehder、初めから紅花を付けるベニバナハコネウツギ(紅花箱根空木)Weigela coraeensis Thunb. f. rubriflora Momiyamaがあります。
 ハコネウツギと酷似した、山地性のニシキウツギ(二色空木)Weigela decora (Nakai) Nakai があり、これにも品種として、シロバナニシキウツギ(白花二色空木)Weigela decora (Nakai) Nakai f. nivea Sugim. 、ベニバナニシキウツギ(紅花二色空木)Weigela decora (Nakai) Nakai f. unicolor (Nakai) H.Hara があります。また、変種のアマギニシキウツギ(天城二色空木)Weigela decora (Nakai) Nakai var. amagiensis (Nakai) H.Hara f. bicolor Sugim. や、交雑種のハコネニシキウツギ(箱根二色空木)Weigela x hakonensis Nakai もあります。

脚注:
1)送粉昆虫は、主にコマルハナバチ(小丸花蜂)Bombus ardens (Smith, 1879)と、ジャコウアゲハ(麝香揚羽)Atrophaneura alcinous (Klug, 1836)。
2)タニウツギ属植物における花色変化の機構と生物学的意義の解明(下川, 悟史 2012)
参考文献:
Flora of Japan, Hakone-utsugi. H.Ohba
The Plant of Hakone Recorded in the Thunberg's Flora of Japan - Bull, Kanagawa prefect. Mus. (Nat. Sci), no 42, pp. 35-62, Feb. 2013

Japanese common name : Hakone-utugi
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Weigela coraeensis Thunb.
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白花が若く、時間が経つと赤花へと変化する。
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シロバナハコネウツギ(白花箱根空木)

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Weigela coraeensis Thunb. f. alba (Voss) Rehder

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左:咲き始め 花は赤くならずに終わる


ハコネウツギ(箱根空木)
スイカズラ科タニウツギ属
学名:Weigela coraeensis Thunb.
花期:5月~6月 落葉低木 樹高:2~5m 花径:2~3cm 果期:9~12月

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【学名解説】
Weigela : Christian Ehrenfried von Weigel (1748-1831)に因む/タニウツギ属
coraeensis : koreensis(朝鮮産の・高麗から来た)
Thunb. : Carl Peter Thunberg (1743-1828)
---
シロバナハコネウツギ(白花箱根空木)
f. : forma(品種)
alba : albus(白色の)
Voss : Andreas Voss (1857-1924)
Rehder : Alfred Rehder (1863-1949)

撮影地:静岡県静岡市
安倍川/河口から11.50km 左岸土手(植栽) 2006.05.24
満観峰(Alt. 470m) 2015.05.21, 2015.06.13
[Location : Shizuoka City, Shizuoka Prefecture JAPAN]

26 May 2006, 17 May 2015
Last modified: 19 June 2015
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by pianix | 2006-05-26 00:00 | | Comments(4)
Commented by surugaki at 2006-05-30 09:14
自宅でもハコネウツギが満開です。先日、ブログにアップしましたが、その後、
近所の山で、背丈が3m以上もある巨大な木を見つけました。それで、ハコネウツギが
樹木ということを実感しました。自宅のハコネウツギをTBさせていただきました。
Commented by pianix at 2006-05-31 14:08
surugakiさん
ブログのハコネウツギ、拝見しました。
近所の山にハコネウツギがあったようで、植生か自生かの興味も沸きますね。
Commented by ゼンゼロ at 2008-06-02 19:19 x
yahooで自然観察を中心にブログをやっているゼンゼロと申します。初めまして。このたびハコネウツギについて調べているところこの記事に辿り着きました。説明が細かく記事作成までに大変に参考になりました。なお、記事は明日6/3の記事としてアップする予定です。今後ともよろしくお願いします。
Commented by pianix at 2008-06-03 13:59
ゼンゼロさん、こんにちは。
「Zen-Zero の 駿東日誌」を拝見しました。
今後ともよろしくお願いいたします。
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