エノキハトガリタマフシ(榎葉尖り玉付子)
 ある里山の休憩地で、草花の手入れをしていた婦人がいました。話を伺うと、勝手にボランティアしていると話してくれました。幾つかの草花を紹介して下さり、解説も交えてくれました。その詳しさに感心していましたが、どうしても分からない木があるから教えて欲しいと問われました。このような人が分からないのだから、私などに分かるはずがありません。葉に実が付いているというのです。私には、ハナイカダ(花筏)しか思いつきませんでした。

 案内されたところにあった木は、エノキ(榎)でした。婦人が言うには、葉に実が成っているから変だと言うのです。そしてそれは盛大に付いています。その瞬間、私の頭にあった名前が消失しました。ど忘れです。家に着く前に思い出すと思うが、後日に名前を記したラベルを付けておくから確かめて欲しいと言い訳をしてその場を去りました。

 後日、約束通りにラベルを枝に取り付けておきました。葉に付いたものは虫瘤で、エノキハトガリタマフシ(榎葉尖り玉付子)でした。その後にお会いした時、「気持ちが悪いと言いながら何度も虫瘤を割って中の虫を見ている女性がいる」と教えてくれました。謎が解けて、興味津々なのでしょう。

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 エノキハトガリタマフシは、エノキトガリタマバエ(榎尖り癭蠅)の虫瘤(gall)です。主に葉に産卵して、円柱形で先が尖る虫瘤を生成します。大きさは、径2~5mm、長さ3~10mm。1虫瘤に一匹の幼虫が住んでいます。エノキハトガリタマフシは、6月頃に葉から落ち、翌年の3月頃からエノキトガリタマバエが羽化します。羽化後は短命です。体長は、約4mm。エノキハトガリタマフシは、オナガコバチ科のTorymus celticolus Matsuo, 2009やTorymus celtidigalla Matsuo, 2009に寄生される事があります。

 エノキトガリタマバエ(榎尖り癭蠅)は、ハエ目(双翅目)タマバエ科の昆虫です。分布域はエノキの分布に準じます。タマバエ科(Cecidomyiidae)は、世界に約4600種以上があります。日本では193種が知られています。

 エノキ(榎)は、アサ科エノキ属の落葉高木です。名の由来は不明です。明るいところを好み、樹高は大きなもので20mになります。葉は互生します。広卵形で、先端部分に鋸歯があります。雌雄同株。果実は核果です。種子は卵形で約5mm。

 アサ科(Cannabaceae Martinov (1820))は、10属約70種があります。クロンキスト及びエングラー体系ではニレ科です。エノキ属(Celtis L. (1753))は、熱帯から温帯の東アジアに約100種が分布します。日本では、本州、四国、九州に分布します。中国名は、朴树(pò shù)。

Japanese common name : Enoki-ha-togari-tama-fusi
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Celticecis japonica Yukawa et Tsuda, 1987

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緑色のエノキハトガリタマフシがエノキの葉に所狭しと盛大に付く。

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葉表・葉裏だけでは無く、葉柄、枝にも付く。時期が来ると茶色に変色する。

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先が尖った円柱形。中にウジ虫のような幼虫が住んでいる。


エノキトガリタマバエ(榎尖り癭蠅)
ハエ目(双翅目)タマバエ科
学名:Celticecis japonica Yukawa et Tsuda, 1987
分布:本州、四国、九州

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【学名解説】
Celticecis : エノキのタマバエ/Celticecis属
japonica : 日本の[japonicus(男性形)/japonica(女性形)/japonicum(中性形)]
Yukawa : 湯川淳一 Junichi Yukawa (1940- )
et : et alii(及び・命名者が2名の時など・&(and)に同じ)
Tsuda : 津田良夫 Yoshio Tsuda (1954- )
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エノキ(榎)
アサ科エノキ属
学名:Celtis sinensis Pers.
花期:4月 落葉高木(雌雄同株) 樹高:15~20m 花径:2~3mm

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【学名解説】
Celtis : Gaius Plinius Secundus (23-79)が名付けた想像上の甘い果実/エノキ属
sinensis : 中国の
Pers. : Christiaan Hendrik Persoon (1761-1836)

撮影地:静岡県静岡市
賤機山(Shizuhata-yama) 2016.06.01, 2017.05.03, 2017.05.16
[Location : Shizuoka City, Shizuoka Prefecture JAPAN]

Last modified: 2 April 2018
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# by pianix | 2018-04-03 00:00 | | Trackback | Comments(0)
ヒマラヤユキノシタ(ヒマラヤ雪の下)
 ヒマラヤユキノシタ(ヒマラヤ雪の下)は、ユキノシタ科ヒマラヤユキノシタ属の多年草です。ヒマラヤ山脈周辺が原産地です。日本には、明治初期に移入されたと考えられています。北海道から九州にかけて園芸用途で栽培されています。名の由来は、ヒマラヤ地方が原産であり、ユキノシタ科である事から。中国名は、短柄岩白菜(duǎn bǐng yán bái cài)。英名は、Himalayan creeping saxifrage。

 ユキノシタ科(Saxifragaceae Juss. (1789))は、温帯から寒帯にかけて約17属500種1)があります。ヒマラヤユキノシタ属(Bergenia Moench, 1794)は、中国、ヒマラヤ、中央アジア等に8種があります。

 根茎状の木質化した基部は初め這い、途中から花茎を立ち上げます。草丈は、10~50cm。葉は互生します。根生葉は光沢のある革質の倒卵形で、葉縁に棘状の鋸歯があります。長さ15~20cm、幅約10cm。長い葉柄があります。常緑ですが、寒さによっては赤褐色を帯びることがあります。

 花期は、2月から5月。茎先に集散花序を出し、桃色の花を多数付けます。花茎は径1~2mm。花径は2~3cm。花弁は倒卵形で、5~6個付きます。雄しべは10本で赤味を帯び、葯色は黄色、長さ6~7mm。雌しべは薄緑色で、長さ7~8mm。柱頭は2~3裂します。

 萼筒は椀形で、幅5~6mm。萼片は5~6裂し、三角状で、長さ約4mm、幅約4mm、先端は尖りません。果実は朔果です。胚珠は中軸胎座 2)。種子は長卵形で、長さ約0.5mm。染色体数は、2n=34。

 種間交雑品種が多く出回っています。ほぼ手入れなしの放任で毎年花をつけます。繁殖は、実生、株分け等で行います。別名でオオイワウチワ(大岩団扇)と呼ばれることがありますが、オオイワウチワ3)は、イワウメ科の別種です。

脚注:
1)以前は約80属1200種が属する大きな科でしたが、近年に幾つかの科が分離され減少しました。
2)中軸胎座 (axial placentation):合生雌しべで、子房の中軸に胚珠がつくもの。
3)Shortia uniflora (Maxim.) Maxim. var. uniflora

Japanese common name : Himaraya-yukinosita
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Bergenia stracheyi (Hook.f. et Thomson) Engl.

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基部は根茎状。葉は互生し、倒卵形。

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雄しべは10本、雌しべ柱頭は2~3裂する。写真左が2裂、右は3裂。

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茎先に5~8cmの集散花序をつける。

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左:受粉後の雌しべと雄しべ。 右:萼筒は椀形、萼片は5~6個。

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葉縁に棘状の鋸歯がある。 左:葉表 右:葉裏

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左:萼を取り払った雌しべ。3裂。右:種子は長卵形(未熟)

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2裂雌しべ子房部分 右は輪切り状態の子房

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中軸胎座につく胚珠


ヒマラヤユキノシタ(ヒマラヤ雪の下)
ユキノシタ科ヒマラヤユキノシタ属
学名:Bergenia stracheyi (Hook.f. et Thomson) Engl.
花期:2月~5月 多年草(常緑宿根草) 草丈:10~50cm 花径:2~3cm

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【学名解説】
Bergenia : Karl August von Bergen (1704-1759)の名に因む/ヒマラヤユキノシタ属
stracheyi : Lieutenant-General Sir Richard Strachey (1817-1908)の
Hook.f. : Joseph Dalton Hooker (1817-1911)
et : et alii(及び・命名者が2名の時など・&(and)に同じ)
Thomson : Thomas Thomson (1817-1878)
Engl. : Heinrich Gustav Adolf Engler (1844-1930)

撮影地:静岡県静岡市
葵区昭府町 2017.04.12
自宅 2018.03.12, 2018.03.21
[Location : Shizuoka City, Shizuoka Prefecture JAPAN]

21 March 2018
Last modified: 29 March 2018
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# by pianix | 2018-03-21 00:00 | | Trackback | Comments(0)